• 「木」語り 連載第5回

    第一章:「木」ってなんだ?

    4:「広葉樹」とは?

    「広葉樹」とは言うまでも無く、幅の広い葉を持った樹木の総称。分類的には「被子植物」でありかつ「双子葉植物」がその対象となります。

    「被子植物」が地上に表れたのは1億年ほど前とされており、裸子植物・セコイアなどの針葉樹よりは後と言う事になります。また、裸子植物・針葉樹にも雌花と雄花があり、雌花が雄花で作られて花粉を受粉すると言う交配方法は同じですが、風が雄花で大量に作られた花粉を雌花に運ぶと言う形態。従って、極めて効率が悪い方法と言えます。

    一方、「被子植物」は我々が良く知る<目立つ花>を咲かせ、その花の魅力で昆虫などを引き寄せ、体に着いた花粉を雄花~雌花へと運ぶことで交配を行うと言う、全く別の方式を確立しました。そして、この被子植物のおそらく多年草の中から、幹(茎)を巨大化させるものが現れ、それが広葉樹となったと言う次第。

    従って「針葉樹」と「広葉樹」では、かなり古い段階で進化の過程が分かれ、別の経路で樹木となった。そう考えるべきでしょう。

    ただしもう少し時代を遡ると、雄花が作る花粉を雌花が受け交配が行われ種子を作り、それが発芽すると言うシステムは同じ。また「維管束」と言う基本構造も同じ。従って、「針葉樹」「広葉樹」共に近い形での巨大化に成功したと言う次第です。結果としてとして<巨大化したものは年輪を構成する事により年々成長する>と言う形態にも大きな違いはありません。

    しかしもう少し深く踏み込むと、「針葉樹」と「広葉樹」では木材として見た場合には、かなり性格が異なります。ただこの件の詳細に関しては、木材の特性に関するコーナーに譲る事にします。それよりも重要な「針葉樹」と「広葉樹」の違いは、樹種の多少にあります。前項でも触れた通り、現在8,000種強の樹種が知られています。ただしこのうち針葉樹は500種程度で、残りの7,500種≒90%以上を「広葉樹」が占めていると言う事。つまり、「針葉樹」と「広葉樹」を比較すると、はるかに後者の方が多様性に富んでいると言う事になります。

    また世界の樹木分布を見ると、「針葉樹」とは異なり比較的暖かいエリア(温帯~亜熱帯~熱帯)に多く分布しています。そして誰もが知っている通り、「広葉樹」には「落葉樹」と「常緑樹」がありますが、分布範囲内の比較的寒い地域ででは「落葉樹」が主体、中間地域では「落葉樹」と「常緑樹」の混成、暖かい地域では「常緑樹」が主体となります。ただし、比較的暖かいエリアに自生する「広葉樹」にも一部「落葉樹」があります。「チーク」「サルスベリ」など。これは乾季に葉を落とすためとされています。

    このような地域変化に合わせ、学術的には広葉樹林帯を以下のように分類しています。

    *落葉広葉樹林帯・・・「広葉樹」の生息地域の中の、比較的寒いエリア。

    *硬葉樹林帯・・・地中海沿岸など。夏はかなり乾燥するがそれでも葉を落とさない「常緑樹」で構成される樹林帯。代表的樹種は「オリーブ」「コルクガシ」「イナゴマメ」など。

    *照葉樹林帯・・・温帯エリアだが比較的暖かい地域に多い。日本の主要な樹林帯(主に西日本)の一つでもある。比較的肉厚で艶のある葉を持つ樹木主体で、温暖かつ湿気の多い地域に出現。従って「硬葉樹林帯」と対をなす。

    *熱帯雨林帯・・・熱帯・亜熱帯の多雨地域に広がる広葉常緑樹林帯。地球規模で見ても広大かつ重要な役割を持つ樹林帯。しかしその破壊が深刻化している事は周知のとおり。

    「ブナ」:日本を代表する「落葉広葉樹」の一つ。
    「ブナ」:日本を代表する「落葉広葉樹」の一つ。
  • 「木」語り 連載第4回

    第一章:「木」ってなんだ?

    3:「針葉樹」とは?

    「木」は「針葉樹」≒「裸子植物」と「広葉樹」≒「被子植物」に大別されます。このコーナーではその中の「針葉樹」について検証します。

    最初にこれまでの確認。「針葉樹」とはその名が示す通り、針のように細長い葉を持ち、「裸子植物」であり、2~1.5億年前に地上に表れた樹木群の総称と言う事になります。

    また比較的広がりが少なく、「ソテツ」「イチョウ」のグループ(綱・目)、「マツ」のグループ(同)、「イチイ」のグループ(同)に大別されます(ただし、分類方法により多少異なる)。

    ただ、「ソテツ」「イチョウ」のグループには「ソテツ」「イチョウ」、「イチイ」のグループは「イチイ」しかなく、他の「針葉樹」の殆どが「マツ」のグループと言う事になります。要するに私達が目にする「針葉樹」は、「ソテツ」「イチョウ(この分類法ではイチョウも針葉樹扱い)」を除き、全て「マツ」の仲間と言う事になります。

    さらに、「針葉樹」の主力となる「マツ」のグループ(マツ綱・マツ目)は「マキ科」「マツ科」「ヒノキ科」「スギ科」「ナンヨウスギ科」の6科に分けられます。

    さらに、「針葉樹」は約50属・500種があり、このように列記すると結構種類が多いように感じます。けれども、実は一般的に樹木扱いされる樹種は8,000種を超えており、「針葉樹」はその6%程度に過ぎない事が分かります。

    また、近年では「スギ科」を廃して「ヒノキ科」に含める、「ヒノキ科」の中に「スギ亜科」を設けるなどの考え方もあります。

    しかし、以上の「針葉樹」分類に関してはあくまでも現在を対象としたもので、歴史と言う時間軸が無視されています。従って、化石などの状況を加味すると矛盾が出てきます。前記の通り「針葉樹」は2~1.5億年前に登場しますが、そのほとんどが「セコイア」の仲間で、「マツ綱・目」の植物は未だ存在していなかったからです。

    となれば、「セコイア綱・目」が最初にあり、そこから「セコイア科」「マキ科」「マツ科」「ヒノキ科」「スギ科」「ナンヨウスギ科」などの樹木が、5,000万年程前から分化して行ったと考えるべきでしょう。

    ちなみに、「セコイア」の直系とされる「針葉樹」は、気候変動・人類による伐採等により、「セコイア・センペルビレンズ(通称:レッドウッド)」1種のみが米国の西海岸の一部に自生するだけとなっています。

    他にも「セコイア」の名が付く樹木には、同じく米国の「ヨセミテ国立公園」等に自生する「セコイア・デンドロン(通称:ジャイアント・セコイア)」、中国の一部地区に自生する「メタセコイア」などがありますが、なぜか傍系扱いとなっています。

    ちなみに、現在の植物分類で「セコイア・センペルビレンズ」の位置づけは<ヒノキ科セコイア属「セコイア・センペルビレンズ」となっています。

    補足するなら、日本の「スギ」を含めた「スギ科」の樹木は、日本・メキシコ近辺・中国の一部に散見されるだけ。そしていずれも「セコイア」にかなり近い性質を持っており、傍系ではあるが、「セコイア・デンドロン」「メタセコイア」などと共にかなり近い植物だと推定されます。従って、かつて世界中に分布していた「セコイア」の仲間が絶滅の危機に追い込まれ、そのわずかな生き残りが「スギ科」の植物として、散見されるようになった。そう考えるのが順当では無いでしょうか?

    いずれにせよ、「セコイア」と「スギ科」の樹木については、後項で詳述する事にします。

    その他の特色としては、比較的寒い地域(寒帯・亜寒帯)に大半が分布・「常緑樹」も「落葉樹樹」もあるが、圧倒的に「常緑樹」が多いと言った事を上げることが出来ます。

    「トウヒ」(針葉樹)の葉
    「トウヒ」(針葉樹)の葉
  • 「木」語り 連載第3回

    第一章:「木」ってなんだ?

    2:「木」の分類

    では具体的に、「木」にはどのようなものがあるでしょうか? 

    前項でも紹介したように、「木性シダ(大葉シダ類)」などは近年除外する事が多いため、「種子植物」で一定条件を満たしたものだけが「木」と呼ぶことが出来ます。さらに、「種子植物」は「裸子植物」と「被子植物」があるため、「木」は「裸子植物」「被子植物」の2グループに大別されます。

    さらに「木」の条件を満たした「裸子植物」の大半は「針葉樹」。従って、「針葉樹」=「裸子植物」と定義したいところですが、「イチョウ(銀杏)」は幅広い葉を持っているにもかかわらず「裸子植物」で、このような例外もありスッキリとは行きません(もっとも、「イチョウ」も「針葉樹」とする分類が主力)。

    ただし、本稿は学術書では無いため、<「裸子植物」≒「針葉樹」、「被子植物」≒「広葉樹」>としておきます。そして、「針葉樹」の場合も「広葉樹」の場合も雄花と雌花があり、雄花が花粉を飛ばし雌花がそれを受粉し実を結ぶ(種を作る)と言う点では同じ。

    しかし針葉樹の場合は風花と呼ばれ、雄花が大量の花粉を風により飛ばし、雌花がそれを受粉すると言う形で、雄花・雌花とも美しく目立つものではありません。また、スギ・ヒノキなどが大量にあると、飛散する花粉の量も膨大なものとなり、「花粉症」の原因となる事は周知のとおり。

    一方広葉樹の場合は、昆虫などにより受粉すると言う、全く別のシステムを創り上げています。このため、虫などを集める機能が必要となり、美しく目立つ花を咲かせる・甘い蜜を出す・香りを有効に使う・・・と言ったお馴染みの「花」をベースとした受粉体制を創り上げました。最も、この形態は樹木だけではなく、草花に関しても全く同じですが。

    もう少し「木」の歴史を辿ると、「針葉樹」が先に登場し、それからかなり遅れて「広葉樹」の登場となります。従って、恐竜などが勢力をふるっていた6.000~5,000万年頃以前には、殆ど針葉樹しか無かった模様。つまり、「針葉樹」の歴史は2~1.5億年の長期にわたるが、「広葉樹」は長くても5,000万年前後と言う事になります。

    ただ、「針葉樹」が進化し「広葉樹」となったのかと言うと、どうもそう単純ではないらしい。前期のとおり「木」は「裸子植物」と「被子植物」に大別され、「針葉樹」のほぼ全てが「裸子植物」でかつ「単子葉植物」となります。その一方で「広葉樹」の圧倒的多数が「被子植物」ですが、同時にほぼ「双子葉植物」でもあるからです。

    草花の場合は御存じの通り、「単子葉植物」と「双子葉植物」に大別されますが、「広葉樹」≒「双子葉植物」でもあると言う事。つまり、新参者の「広葉樹」は「双子葉植物」の一部が巨大化する事により生まれたと見るべきでしょう。結果、「針葉樹」よりはるかに多様な進化を見せ、樹種も圧倒的多数を占めるようになりました。ただいずれにせよ、「針葉樹」と「広葉樹」はかなり古い段階で別の進化形態を辿ったと言う事。

    では現代において、「針葉樹」と「広葉樹」にはどのような樹種があり、特性を持っているのでしょうか?

    代表的針葉樹「ヒノキ」の人工林
    代表的針葉樹「ヒノキ」の人工林
    代表的広葉樹「ケヤキ」(野間の大ケヤキ)
    代表的広葉樹「ケヤキ」(野間の大ケヤキ)