• 「木」語り 連載第2回

    第一章:「木」ってなんだ?

    1:「木」の定義

    「木」とは何でしょうか? 絶対的と言える定義は無いようですが、最近はかなり狭い条件を設定するケースが多く、ここでも狭義の条件を備えた物だけを「木」としておきます(後述)。

    海で生物が発生し、進化の過程で12億年ほど前に藻などの植物が生まれ、その後昆布などの大型の海藻も登場。それらはある意味「木」に似ているようでもありますが、残念ながら決定的相違があり、「木」の登場は植物が陸へと生活の場を拡大した後の事となります。なぜなら、「木」と言える性質を備えるには地球の重力が深く関係していたからです。

    水中でも勿論重力は存在しますが、液体と言う性質が影響し、その中では自らの強度で重力に逆らい体重を支える必要が無かったからです。

    植物の陸上進出時期には諸説あるようですが、原始的なものは8億年ほど前に既に上陸していた模様。しかし大気の成分等の影響で、ごく小さな個体しか存在できなかったとされています。従って、「木」への進化に繋がる陸上植物の登場はかなり後代になってからの事で、木性シダ類などが元祖と考えられています。ただその発生時期に関しては明確に示された資料が殆ど見当たらず、3~2億年程前と言ったアバウトな設定しか出来ません。

    いずれにせよ、大気成分などの陸上環境が次第に植物に有利に働くようになり、大発展すると共に、巨大化するものも複数表れ、「木」もしくは「木」に近い植物登場に繋がります。要するに、巨大化の過程で上向きに大きく伸びる植物(木性シダ類、等)が現れ、重力に対抗するために強靭な幹が必要になり、やがて「木」へと進化したと言う次第。

    もう一つ「木」となる条件を植物は備えるようになっていました。それは「維管束」と言う、細い管を束ねたような構造です。この構造を備える事により、光合成で作った成分・ミネラル・水などの、生存に必要なものを各部へ運ぶことが出来るようになったからです。そして、この構造を持つ植物を「維管束植物」と総称し、大葉シダ植物・ヒカゲノカズラ植物・種子植物(裸子植物・被子植物)などが含まれています。一方、コケ類・藻類は含まれていません。

    これを見てわかる通り、「維管束」構造を持つ事で同グループの植物は、大型化に成功し、根・茎(幹)・葉などの部位を持ちそれを発達させることが出来るようになったと言う次第。

    以上を整理すると、「木」とは<上陸し重力の影響を受け、大気からCO2を吸収することが出来る環境に適合し、「維管束」と言う構造を有する事>で誕生した植物群と言う事が出来るでしょう。

    ただし、我々が知っている「木」には、分類上もう一つの重要な要素があります。それは、「大葉植物」 or 「真葉植物」と呼ばれるグループに含まれていると言う事。それは「維管束植物」の中の主要なグループを形成しており、要するに全て立派な葉を持っていると言う事。勿論、針のような葉・丸い葉・細長い葉・大小に違いなどはありますが、これにより最も高い光合成能力を持つ事が出来る植物群となりました。

    以上のような視点で分類して行くと、「木」のような性質を持つ現存する植物は、「木性シダ(大葉シダ類)」「種子植物」に大別できます。ただ、「木性シダ類」は年輪を形成せず、年月を経ても幹が太くなることはありません。従ってここでは、「木」から除外しておきます。

    上記を総括すると、<「木」とは、年輪を形成する事で太く成長する幹を有する「裸子植物」と「被子植物」の事>と定義する事が出来るでしょう。つまり、太い幹を持ち大きく成長しても、サボテン類や多肉植物(例えば「バオバブ」)などは「木」には含まれないと言う事。

    「大葉シダ」の葉
    「大葉シダ」の葉
    「裸子植物」の葉(トウヒ)
    「裸子植物」の葉(トウヒ)
    「広葉樹」の葉(クスノキ)
    「広葉樹」の葉(クスノキ)
  • 「木」語り 連載第1回

    プロローグ

    <「木」語り(「き」がたり)>は「木」と言う素晴らしい宇宙からの贈り物について、多くの方々とじっくりディスカッションするための著作物です。

    今最大の問題となっている地球温暖化。ゼロカーボン社会を創出する事でそれを是正する事が可能だとされています。そして人類は実現に向けて歩み出してはいます。しかし、その歩みはエゴとの狭間で揺れ動き、計画通り進んでいないのが現状。そこに人間の本質が現れているようにも・・・

    ただそんな悠長なことを言っている場合ではありません。私達のゆりかごであり、住まいであり、そして次世代の未来でもある地球が悲鳴を上げているからです。しかも、私たち自身の行いにより。だから、この問題にチャレンジし解決できるのも私たち(当事者)自身以外にありません。

    そして、この難題に対しては2つの解決方法があります。1つ目は、CO2の排出量を減らす事。2つ目は、CO2を酸素と炭素に分解してしまうと言う方法。

    後者に関しては(新しい分解技術が実用化されない限り)植物の力を借りる以外に方法はありません。中でも、大きく育つ「木(樹木)」は圧倒的パワーでその役割を果たし続けてくれています。となれば<より良い「木」との付き合い方>が出来れば、間違いなく地球温暖化問題に一石をと投じられると言う事でもあります。

    にもかかわらず、私たちは<あまり感心できない「木」との付き合い方>ばかりしてきました。残念ながら日本においても同様で、早急に解決しなければならない難題が山積しています。

    その一方で、私たちは<「木」の素晴らしさ>を良く知っています。半面<「木」に対する誤解>から、暮らしの中から「木」を排除してしまうような動きも多数見られます。だからこそ、まず<「木」を良く知る>事から始めなければなりません。

    しかも、「木」を正しく使う事は自然環境の改善に直結しています。

    個々の立場・分野などにとらわれることなく、この<「木」語り>が「木」と一から語り合うための、実験台的存在になればと考えています。

    2023年4月30日 みずき りょう

    南アメリカの熱帯雨林
    南アメリカの熱帯雨林
  • みずきりょう の:エクステリア&ガーデンメモ NO3,082

    「世界のガーデン」第八章:「風景式(イギリス式)庭園」

    第65回:「キュー・ガーデンズ」とは?

    「風景式(イギリス式)庭園」を紹介中。今回は「キュー・ガーデンズ」を取り上げます。

    「キュー・ガーデンズ」 は首都ロンドン南西部にある王立の植物園とその付帯設備の総称です。ただ、単に植物園と言うだけではなく、世界有数の植物に関するサンプル・資料を揃えた施設でもあり、2,021年の時点で700万点に及ぶとされ、植物研究施設としても広く知られています。また、このような役割が評価され2,003年にはユネスコの世界遺産にも指定されています。

    「キュー・ガーデンズ」 は、ロンドンとリッチモンドの中間の位置にあり、植物学に関する文献も多数発行してきました。「カーティス・ボルタニカ・マガジン」はその代表作品の1つで、現在も継続発行中。「熱帯東アフリカ植物誌」はウガンダ・ケニア・タンザニア地域の植物を網羅したもので、1,948~2,012までの歳月を費やした大著で、263巻に12,100種を網羅。

    また近年は、主に東南アジアの植物を対象に「ライデン植物園」(オランダ最古の植物園)と提携し、WEB情報を公開するなど先進的な活動も行っています。

    歴史を辿ると、「ケープル」と言う貴族が熱帯植物を集めた庭を造ったことが発端となり、その後「ジョージ2世」(イギリス王、在位1,722~1,760年)の長男「フレデリック皇太子」の未亡人「オーガスタ」により拡張(建物等が追加された)され、その時の建造物「グレート・パゴダ」(1,761年)はなどは現在も同ガーデンの貴重な建物として高い評価を受けています。

    その後も「ジョージ3世」(イギリス王、在位1,760~1,820年)が隣接していた「ダッチ・ハウス」を1,781年に購入し、王室の子供を育てる施設(現在の「キュー宮殿」)とする、1,840年に庭園を植物園に改修し同部を30ヘクタールにまで拡張(全体の敷地は120ヘクタールとなる)するなど、進化を遂げてきました。

    また、 「キュー・ガーデンズ」 の歴史は大英帝国の歴史とも重なり、多くの植民地に対する農場経営とも密接なかかわりを持っていました。スリランカ・インドなどでの茶の生産(中国原産)、マレー半島での天然ゴム生産(アマゾン川流域原産)、インドでのキニーネ生産(マラリアの特効薬、南米ペルー原産)などがその代表的なもの。

    また、 「キュー・ガーデンズ」 は日本とのつながりも深く、ジャパニーズ・ゲートウェイと言う、日本の古い建物と庭をイメージしたコーナーも併設しています。そこには古民家風(ミンカ・ハウス)なども設置(写真参照)されており、多くの日本人が訪れる観光名所でもあります。

    「キュー・ガーデンズ」 全景(左部分)
    「キュー・ガーデンズ」 全景(左部分)
    「キュー・ガーデンズ」 全景(右部分)
    「キュー・ガーデンズ」 全景(右部分)
    大温室「パーム・ハウス」
    大温室「パーム・ハウス」
    「キュー宮殿」(ダッチ・ハウス)
    「キュー宮殿」(ダッチ・ハウス)
    ツリー・トップ・ウォーク
    ツリー・トップ・ウォーク
    マリアンヌ・ノース・ギャラリー
    マリアンヌ・ノース・ギャラリー
    パゴダ
    パゴダ
    ジャパニーズ・ゲートウェイ(日本エリア)
    ジャパニーズ・ゲートウェイ(日本エリア)
    ミンカ・ハウス(日本の民家)
    ミンカ・ハウス(日本の民家)